『田中家の三十二万石』岩井三四二著(光文社文庫)

やぎ散歩

出張前にBOOK OFFで買って読了

予想を超えて面白かった。

やぎ氏は何かの待ち時間で携帯をポチるのは勿体ない気がして、常に未読本をカバンに1冊以上ストックしています。

ただ、それらの本が全て仕事術やコーチング、お金や税金、語学本などの実学ばかりでは疲れてしまいます。孫子や韓非子などのガチ本でも疲れちゃいます。

そのため、疲れずに読めるエンタメ枠として歴史上の人物の伝記は調度良いです。

この手の歴史小説は一貫して、架空のヒロインとのラブ・ストーリーが組み込まれています。司馬遼太郎からしてそうです。謎の女忍だったり、側室だったり。

あくまで娯楽としての歴史小説なので、その人物が概略、どのような事をしたのかを知るには調度良いと思います。

本能寺の変や関ヶ原の戦いなどの歴史上の主要な出来事に対してどのような決断をしたのかとか、どのように戦い、どのような政治を行ったのかとか。

そのため、過度な期待はせずに無心で読んでいたのですが、著者の創り出したストーリーとスピード感のある展開や、読みやすい文章が田中吉政の貧農から大名に登りつめて行く人生の面白さと相まって1日で読めました。

以下、あらすじ。

近江国三川村の百姓・久兵衛は、年貢に縛られ侍に痛めつけられる百姓暮らしに嫌気がさし、志願して十六歳で地元の武将・宮部善祥坊の小者となる。初めての禄はわずか三石。学もなく歌の一首も読めない久兵衛だが、食うために、家族を食わせるためにがむしゃらに出世を目指し始める。槍の腕を磨き、漢字を覚え、戦場では敵陣に真っ先に切り込み、主や天下人の理不尽も歯を食いしばって耐え、時には味方を裏切り、六十二歳にしてついには国持ちの大名へと上りつめていく。貧農から身を起こし、筑後三十二万石の太守となった田中久兵衛吉政の痛快にして哀感にも満ちた生涯を描く。

歴史小説は最後まで面白くしようとしても、どうしても歴史イベントとの兼ね合いもあるので難しいと思います。

例えば、やぎ氏の好きな武将に蒲生氏郷という武将がいます。それぞれ作者が違う『蒲生氏郷』の伝記を4冊くらい読んでいます。

蒲生氏郷は幼少期の人質時代から、蒲生家の居城である日野城へ戻るまで、オモシろエピソードが満載ですが、若くして病死したために関ヶ原の戦いに参加していません。最後は奥州の一大名の反乱討伐をして終えます。これを歴史小説にしようとすると、どうしても尻すぼみになってしまいます。

今回、読んだ田中吉政にしても、関ヶ原の戦いが終わったあとは畳の上で死ぬだけなのですが、ラストまでちゃんと面白かったです。著者の岩井三四二さんの他の小説が読んでみたくなりました。

前ブログで紹介した『フィールド・オブ・ドリームス』の対比のような結末になりますが。

この作品の田中吉政は、重税に喘ぐ貧農で家族の反対を押し切り武士となり、太閤秀吉に出会い全速力で出世の道を駆け上がります。

そして念願の大大名になったとき、農家の娘であった妻とその息子である嫡男は彼の出世のスピードについて行くことができませんでした。

家族のために、武士になったはずなのに。妻と子のために全力で戦ってきたのに…。

彼は言いました。

『坂を登っている途中が一番、楽しかった。』

最初から最後まで面白い作品でした。

完

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